ルキフェルが天から堕ちた日、男は笑った。
堕ちた明星に口付けて。
「確かに契約は果たされた。その力、返して貰おう。」
そう囁いて、男は光の泡に消えた。

惨々たる戦場の跡。
まだ幼さの残る少女のような天使が、一人、立ち尽くしている。
足下には、息絶えた天使が一人。
…夕日は影を少女の後ろに色濃く、
風は血の匂いだけを運び、
その中で、泣くでもなく、少女は、その天使を見つめている。

夕日の創る影が、不意に揺れる。
光の出現に、少女はぼんやり振り返る。
月のような淡い白さの光が収束していき、やがて、人影を生んだ。
「何をしている?」
光は去り、現れた黒衣の男は、傲慢に訊いた。
少女は応えず、ただ男を見上げている。
「それは知り合いか?」
そっけなく視線を動かして、男は少女の足下を見る。
「大好きだったの。大好きだったのに、今こうして死んでいるのを見ても、何も感じない。ねぇ、気持まで、失ったら、どうしたら良いの?」 少女の問いに、男はそっけなく口を開いた。

「失った物は、探せば良かろう。」
少女は、男の答えに視線を巡らせ、やがて男に視線を戻した。
ひたむきなその目に、男は少しだけ目を細めて微笑んだ。
「…行くか?一緒に。」
男は手を差し伸べて、訊いた。
「私を、知っているの?」
じっと見つめられる瞳から視線を逸らし、男は身を翻した。
「行くぞ。」

その声に、慌てて掴んだ暖かそうな手は。
意外に冷たくて。
それでも、少女をほっとさせた。