弥生:姫踊子草




この想いを抱いたのはいつからだろう。
或いは、生まれた時からだったかもしれない。
曲に合わせて一分のずれもなく左右対称に踊るは、双子ならではの技か。
けれど、その心の奥底までは互いに感じ得ないものだ。
それは、二人が異性の双子であるからでもあるし、別の道を歩いているからでもある。

「秘めたるなら許される想いでしょうか。」
己の半身を見つめながら呟かれた声は、背後の男しか聞こえなかった。
男は、深く息を吐いて、何も応えなかった。
応える言葉など、持ち合わせていないのだ。
彼女の半身であり、彼の親友であるあの青年は、心に闇を住まわせている。
そしてその闇は、己を好いていることを知っている。
親友が、彼女を半身以上の意味で好いていることも。
けれど、それらをけして受け入れることはないだろうことも、男は知っていた。
そして、彼の半身たるこの美しい娘も。
お互いに全てを理解しながら、けれど寄り添うことも出来ず。
手を繋ぐことは出来ないからと手の甲を合わせる切なさで均衡を保っているのだ。
その想いを否定すること誰が出来るだろう。
その思いを肯定することを、誰が許すだろう。
男は、娘の視線の先に舞う青年を黙って見つめた。

「けれど、私は幸せなのです。必ず、私は彼と共にいられるのですから。」
視線に誘われた娘は、そう言い残すと青年と共に舞いだす。
男はその雅を黙って見つめていた。
『どれだけ季節が廻っても、共に在れる事は、幸せだと思うんだ。』
いつかの青年の言葉を思いながら。

男と女、想いは三つ。
くるくるくるくる廻る廻る。
足元に咲く愛らしい踊り子草だけが、春が来る幸せを教えていた。



姫踊子草「隠れた恋」「春の幸せ」