皐月:牡丹




雪深い冬の日、壮年の男が金髪碧眼の人形娘の案内で、優雅に寛ぐ女の前に現れた。
「ご注文の品、お届けに上がりました。」
男は女の前に跪くと膝の上で手にした風呂敷包みを解いた。
現われたるは花が生き埋めにされたと見紛うばかりの精緻な織りの着物と帯。
「あぁ。出来上がったの。」
口角を持ち上げて美しい曲線を描き、女は言った。
「折角だもの、着てみるわ。」
女は風呂敷ごと着物を受け取り、人形娘と共に席を外した。

10分とかからず、女は再び姿を現した。
その身に纏うは微妙な色合いのグラデーションから成る着物に、大輪の咲く帯。
「宵闇に浮かぶ牡丹のイメージで織らせて戴きました。お気に召されましたか?」
男は己の作品の出来栄えだけを確認し、顔を見ないように口を開いた。
「有り難う、気に入ったわ。」
着物から帯、帯から着物へと計算し尽くされた織り柄に満足して女は答えた。
「それでは、またのご来店をお待ち申し上げております。」
男はその言葉に嬉しそうに相好を崩すと、頭を下げてその場を辞した。

その後、
呟いたのは、誰だったのか。
夜空を写した着物に浮かぶは白き花の王。
嫣然と微笑む様はそれらに何等遜色なく。
夜の女王に王が寄り添うは、まさに王者の風格。
と。



牡丹「王者の風格」「風格ある振る舞い」