ごめん、と降る声を今夜も獣は寝ている振りでやり過ごしている。
守られる覚悟がないと言う。
無力で守られるのならば覚悟は要らないだろうが、無力ではない故の葛藤だろうか。
私が深淵の王に、或いは半身に身を委ねるように、そうする事を出来る自信がないのだろう。
一番守りたいのは、獣のプライドだろう。
そうする為には守られる覚悟が必要で、それが出来ないから、想いを通わすことが出来ない。
想いに酔うことさえ出来ないのはあの石のせいではないのかと、いつも足首に遊ばせている形見の一つを見て思う。
しゃらしゃらと音を立てるそれは元々は手首に巻く物だった。
しかし、今の体ではするりと落ちてしまうと聞いたのを思い出した。
いっそ青く見える肌に紫の石はやけに浮いて見える。
体が弱くも酒精を分解する酵素は持ち合わせたらしいそれへグラスを鳴らして誘えば、伏し目がちに見つめていた眸を茫と上げ、するりと立ち上がる。
そんな眸をするなら夢くらい見れば良いものをと声を出さずに胸に転がしたが、しっかり読めてしまっている相手には無言も意味はない。
苦笑されて苦笑を返した。
しゃらしゃらとグラスに、足首に巻かれたのと同じ石を入れて呑むのは、悪酔いしない為だと言っていた。
しかし単に相性のいいその石を沈めていれば舌触りがよくなるのかもしれないと私は思っている。
ひやりとした舌触りの冷たな酒をするりと咽喉に流し込んで、二人特に話す事もなくいる。
案外に寡黙なこれは、必要がなければ本当は私以上に面倒臭がり屋なのかもしれない。
しゃら、しゃらと机の下、石が鳴る。鳴らして遊んでは、こっそりと微笑うその仕種は獣が好きだと言っていたものだろうか。
しゃらり、しゃらり。石の涼やかな音、しゃり、とグラスの中で転がる石。
想いにも酒にも酔えぬまま、夜は更けていく。