悦に浸る女の前で、常緑色の眸は虚ろだった。
「緑は私の一番好きな色よ、私の一番好きな色で貴方を飾りたいわ。」
事の発端はそんな言葉だったような気もするし、単に女が狂っているのかもしれない。
とにかく考える事がひどく億劫だった。
奇妙な既視感を感じながら、天使はされるがまま、人形の如く大人しく座っている。
抵抗すれば痛い思いをするし、物は物らしく振る舞わねばならない。
そう刷り込まれている天使は、反抗など思い付きもしない。
「貴方の眸は私のために誂えたみたいに美しい緑ね。」
うっとりと目元に口付けられて、天使は口元だけ美しいカーブを描いた。
ちり、と肩胛骨辺りが痛んだ気がしたが顔には出さなかった。
そのまま、緑色の石と言う意味を持つ宝石で作られた装飾品が肌を滑る。
ひやりとした感覚にふるりと身を震わせると、女はまたうふふと笑う。
女にとっては天使はまさに理想の造詣をしていた。
艶やかな黒髪、緑の眸、白磁の肌。
指の形、唇の厚さ、肩のカーブ、腰の細さ。
その全てが、自分のために用意されたとしか思えなかった。
見る度にそれを確信し、出かける度に緑の石を与えた。

嗚呼、先に狂い死ぬは女か天使か。
答えは出ないまま、部屋は緑に埋もれていく。
何度も繰り返す既視感、止まない頭痛、巡る罪。
天使は虚空に悲しい輪廻を見ていた。