城主はその日、心底呆れたという風に旧友を見た。
「駄目かね。」
旧友はと言えば、そんなあからさまな表情を気にした様子もない。
「駄目だなぁ。」
城主はのんびりと間延びした返事を返した。
「どうしてもかね?」
旧友は引く様子がなく、城主は理解出来ない、と言った表情でため息を吐いた。
「対価はこれなのだが…」
取り出された物は柔らかな布を幾重にも纏っていた。
「彼にはふさわしかろう?」
そう言われても城主は片眉を上げるに留まる。
愚かしさに笑うこともしない。
「駄目かね。」
また、旧友が問う。
「さぁなぁ。」
城主は漸く返答を変えた。
「本人に聞くがいいさ。でも多分駄目だ、対価がこれではなぁ。」
城主は、少し眠い気がしながら、机に置かれた輝きを見て薄く笑った。
(実際眠る事はないのだが。)
そして机に置かれたベルで件の「彼」を呼び出す。
「足りないかね?」
旧友の問いに、城主は首を振った。
特に意味を教える気もなかった。
「…入りたまえ。」
すぐに聞こえたノックに城主は入室を許可した。

「断る。」
事の子細を聞いた後の『彼』は即座に言った。
旧友は哀れなほど肩を落としたが、『彼』の表情は少しも動かず、城主は可笑しそうに笑った。

旧友ががっかりしたまま帰路に着き、『彼』を追い出した後、城主はまた一人笑った。
対価がそれでなくても『彼』は是とは言わないだろうが、よりによって征服されないという意味を持つ石を持ってきた旧友は、彼が手に入らないと自ら言っていたかのようだ。
立方体の形を緻密に並べた自然界で最も硬質な結晶は確かに『彼』を連想するのかもしれないが、城主にはただただ全てが可笑しかった。