「それ…」
誰に対しても給仕を怠らない金髪の人形娘に、スカイブルーの小鳥は声をかけた。
人形娘はジュースを注ぎ終え、ポットをワゴンに戻してから「どれでしょうか?」と問い返した。
小鳥はおずおずと人形娘の首元を指さす。
小鳥はその首元に飾られたブローチの石に模様らしきものが入っているのを光の加減で目に留めて興味が沸いたようだった。
その仕草に人形娘は首元のブローチを外した。
「我が主の紋章です。」
人形娘は小鳥の掌にそのブローチを乗せた。
「きれい…」
小鳥は掌の上で少し角度を変えたりしながらブローチを眺めた。
そこに描かれた模様は複雑で何を意味しているものかも小鳥には分からなかったが、薄青く透き通った石の中で目を凝らさなくては見えないその紋章は秘密めいて、秘匿されたもの特有の魅力を感じた。
「インタリオという技法で彫られているものです。街の工房にも一人、カメオ職人がいますから後で見に行きますか?」
熱心にブローチを見つめる小鳥に、人形娘はそう問うた。
「いいの?」
目を輝かせた小鳥に人形娘は頷いてみせた。
「今日は街に行く用事がありますから、それが終わってからで良ければ。」
ブローチよりずっと濃い青の眸を見上げて、小鳥は小さく歓声を上げた。
「私の目に使われている石の奥にもインタリオが施されています。見ても分からない位置ですけれど。そのブローチとは石も同じですね。」
そう言えば、小鳥はまた感心したようにブローチと眸を見比べた。
ブローチの石は仄青く、限りなく透明に近い色をしている。眸は鮮やかな青で、まさに青い石というその名にふさわしい色合いをしていた。
同じ石とは到底思えないが、いつだか材質が同じでも創られる行程で出る色が変わると教えられたことを思い出し、小鳥は感心したように頷いてそのブローチを持ち主に返した。
「では少し他の仕事をして参りますね。飲み終わったらワゴンにグラスを戻しておいていただけますか?」
ブローチを元の位置に戻してから人形娘はジュースを口に運ぶ小鳥に声をかけた。
小鳥はうん、と応え、コクリとのどを潤す。
それに微笑み、人形娘はふわりとスカートを翻してその場を後にした。

小鳥は飲み終えたグラスを言われた通りワゴンに戻すと外の温室に向かいだした。
カメオ職人に会いに行く前に、博識な錬金術師に石の話を聞きに行こうと思いついたのだ。
機嫌が良いですようにと願いながら、小鳥は庭を駆けていった。