差し出されたそれを男は受け取らなかった。
女の細い手に乗せられた小箱の上にはシンプルなタイピン。
「女に恥をかかせるものではなくてよ?」
女は毒花のような唇から言葉を紡いだ。
その自信に満ちた仕草にも、男は関心を示さず、自分を創り出したあの男ならうまく返すのだろうなどと考えていた。
タイピンは黄玉を上品に乗せている。
太陽の石とも言われるその石の名を思い出し、男は丁寧に、頑なに辞退して女の元を去った。
女の妬ましげな表情には見向きもせずに。
あの石の名はかつて、別の石の名だった。
その頃、は。
その頃を。
男は知らない。
男はその記憶そのものであり、その時を生きていたわけではない。
けれど、だから。
それは瑞々しい記憶。
苦笑して男は懐中時計のチェーンに通された薄緑の石を撫でた。
かつて捜し求めると言う意味合いを持った石に、淡い紅の羽根を持った天使はもういない、と宥めるように。
男は、やはり、過去そのものだった。