噎せ返る薔薇の香りの中で青年は夢と現を彷徨っていた。
この研究熱心な青年には珍しいことだった。
或いは、研究に没頭し過ぎて疲れてしまったのかもしれない。
夢と現の狭間で思いを馳せるのは自ら捨てた城の事。
彼は今でもそれが間違いだったとは思っていない。
戦う事が必ずしも賢い手段ではないと知っていた。
後は価値観の問題だろうと青年は解釈している。
己と同じく、アルビノで生まれてきた妹は一番早く逝った。
二人いた弟は、きっと何処かで幸せになって、そして逝ったのだと信じている。
温室は只ひたすら静かだった。青年はまどろみ続ける。



腕に亡国を抱いて非天は眠る。