序章




荒廃した大地。
ある日を境に崩壊した世界に残されたのは、全盛期の総数の1割程の人間と、動物と植物だった。
もうそのある日を覚えている者はいない。
再び人間も動物も植物も、種の保存を繰り返して生きているに過ぎない。
あの日について、人間は過ちを繰り返さぬようにと語り継いでいる。
つまり、あの日の出来事は既に御伽噺の中の世界なのである。
それが史実だとしても。

歴史から人間が学んだことは、科学が進歩しすぎるとまた崩壊を招くという事だった。
しかし科学の進歩を止められる筈もなく、科学は進歩していく。
ただ前の世界と違ったのは、発達したのが科学だけではなかったことだ。
何が発達したのか。
人間が神から授かった力、とでも言おうか。
自然の力を借りた、という人もいるかもしれない。
魔法や超能力と呼ばれるかもしれない。
そう言った力だった。
彼らはそれを"法力"と呼んだ。
残念な事に"法力"を使える者は少なかった。
"法力"の強さにも違いがあった。
"法力"の強い者の中には人を傷付けるような能力の者もいて、そういう者は何かしらの機関によって管理された。
例えば、新しい世界になってから何処かしらから現れるようになった『異邦者』―人外の妖怪や怪物と言われるような存在―から人間を守るために組織された軍隊によって。
例えば、その"法力"を制御する為の器械を作るための組織によって。
前者に行ける者は英雄になれた。後者に行く者の大半は犯罪を犯した者だった。
そしてそれ以外の"法力"使いは普通の生活を保障された。
勿論、どんな世界にも例外があるように、強い"法力"を持つ者の中にもこれに当て嵌まらない人間はいたが。

これはそんな世界の片隅の物語である。