青年は呆然としていた。
もう戦争は終わったのに、少女は剣を置こうとしない、銃を置こうとしない。
もう戦争は終わったのに、もう戦争は終わったのに。
少女は普通を知らない。
この罪深い戦争の最中に生まれてきて、戦争を終わらせることを望んだ。
少女は英雄の一人だった。
けれど、少女は。
戦争の中で生まれて戦争の中で生きてきたから、戦争が終わった後を考えていなかった。
ただ只管、終わらせる事だけを夢見て。
その後の自分なんて思い描いた事がなかったのだ。
青年は祈ろうとした。
でも誰に祈ればいいのだろうと、また呆然とする。
神はいない。
神はいないからこそ、自分達で勝利を勝ち取ったのだ。
人類存続の危機、まさにその言葉の通り、突然変異だか進化したのかしらない、魔物のような動物達との戦争だった。
何度幾度誰が祈っても神は応えはしなかった。
これが神の裁きであるとするのはあまりに哀しく、やはりそれは遺伝子の進化の結果なのだろうと青年は思っている。
生き残ったのに、戦争は終わったのに。
少女は剣を置かない、少女は銃を置かない。
少女は、正気を失っているわけでもなんでもなく、それを置いて生きる方法を知らない。
どうすればいい、どうすればいい。
少女に手を差し伸べても、少女は首を傾げて微笑んだ。
一緒に生きようと言ったら、うんと頷くのに、その手を取ってはくれない。
手は繋ぐためにあるのに、殺すためじゃないのに。
けれど青年はそれを教える術がなかった。
それは遠い日、愛された子供だけが知ってるぬくもりなのかもしれない。
どうやってぬくもりを教えればいい。
どうやって、平和の中で生きる幸せを教えたらいい。
幸せ。
その言葉にまた青年は戸惑う。
少女は生きていることそのもの以外の幸せを知らないのだ。
美味しい食事も、花が綺麗だということも、澄んだ空の清清しさも。
青年は、少女にまだ手を差し伸べている。
辛抱強くそれを掴むのを待っているけれど、少女はその行為をただ目に映すだけで意味を図ろうとしないし図れない。

「旅をしよう、長い旅になるけれど、一緒に生きていこう。」

青年は言った。
その声がまるで涙に濡れているように感じて、少女は初めて、心を動かされたように青年の手を取った。
青年はすかさずその手を握って、深く深く抱きしめた。
その利き手にはやっぱり銃があって、その腰には剣がぶら下がっていたけれど、旅には必要だからいいだろう。
時間はたっぷりある。
平和になったのだ。
だから、旅に出よう。
旅に出て、旅をして。
そして知ればいい、平和な世界の中で、もう一度少女は生まれなおすのだ。