「くだらん。私を裁かんとするのか?愚かな神の使者よ。帰って君の盲信する主に伝えたまえ。私を煩うならその手で終わらせに来い、と。真に、私を創りし主だとするなら、ね。」
神の使者、と呼んだ羽根を背に負う種族を見る、その目には傲りはなかった。
ただ哀しみにも似た感情が一瞬過ぎったのを、跪いた天使は見る事が出来なかった。
彼の人は風向きが変わったのを合図にしたように、或いは興味を失ったかのように踵を返した。
「我が主の正義よ、此処に力として示したまえ!」
「精霊よ、契約によりて我は召喚す。我に仇なすものへその牙を穿て。」
その手に光が収束するより早く、彼の人を主とする精霊が天使を襲う。
「ぐっ…」
天使だろうそれは、今度こそ力を失ったのだろう。その場に崩折れた。
背を向けてから一度もそちらを向く事なく浅く溜め息を吐いて、一歩、足を進めて。
「守護の光よ、神の正義を知る者に癒しを与えたまえ…」
そう呟くと、淡い光が天使を包み、傷を薄くしていく。その光が収まると、また何事もなかったかのように立ち去ろうとし、ふともう一度足を止める。
「あぁ、私の庇護下にある子達に危害を加えるようなら、その時は、魂も残さず消し去るから、そのつもりで。」
そう氷片を含んだような声色で宣告し、それから短く何かを詠唱する。
すぅ、と浮き出た魔方陣は天使を吸い込んで程なく消えた。


「…疲れた…。」
ほぅ、と溜息を吐いて、吐き出された言葉は風が攫い、誰にも届きはしなかった。