至高の従者




その日の城主は常にない程居住まいを正し、目の前に立つ姿勢の良い女性を見つめていた。
彼女の雰囲気がつい、城主にそうさせるのかもしれない。
「願いは分かった。…しかし、本当にそれで良いのか。」
城主は確認するように問うた。
「はい。今の主に仕え続ける事が我が喜び。どうかお聞き届け願いたい。」
きっちりと背筋を伸ばしたまま頭を下げる姿に、城主はゆっくりと肯いた。
そもそも、城主の元へやって来れた時点で城主に否はない。
「では対価を。」
そう言って差し出されたのは、かつての主が与えたと言うサークレットだった。
思い入れのあるものではなかろうかと城主は視線を向ける。
「私には装飾品は必要御座いませんので。」
その言葉は違えようのない実力に裏付けされていて、城主は目を細めた。
その身は飾る物ではなく主を護るもの、主の為に働く為だけのものなのだろう。
「貴公に仕えられる主人は幸せだろうな。」
そう城主は呟いた。途端、彼女は怪訝な様子で首を傾げた。
「私などが主の幸せになるなど、烏滸がましいことです。」
その言葉に城主は己が彼女の矜持を傷付けたと知った。
彼女にとって、主と己は同列に並べてはならないものなのだ。
「それは、失礼した。…彼も貴公が仕えるに相応しい存在で居続けるのだろうな。」
そう言えば、彼女は滅多に表情を崩さない表情を僅かに緩めて見せた。
誇らしげなその表情に、或いは家族より強い絆を見た気がして、城主は彼女にとっては既に何の価値もないサークレットを手に取った。
「汝が願い、叶えよう。」
決まりきった台詞で、契約は成された。
彼女は何度主が生まれ直そうと馳せ参じて仕えるのだろう。
その強き意思と力で運命さえ捩じ伏せて、未来を変え続けるのかもしれない。
彼女の主ならばそうするだろう、愛する者の為に、これからも。

遠い未来から、軽やかな笑い声が聞こえた気がした。