奇跡の在り方




「私の親友は万事上手くしてくれたらしい。お別れだ。世話になった。」
折り目正しく、稀代の錬金術師はそう告げた。
「淋しくなるな。」
城主は小さく告げた。
「この時代に追いついた私がきっと、ここにも訪れよう。彼は私なのだから。」
目を細めて、彼は言った。
城主は言葉を見つけられず、ただ少しだけ笑い返した。

悲願を果たした彼自身が、孤独だった彼自身が救われて欲しかった。

そう言ったのは、彼の親友だった。
城主はその願いを叶えようかと考え、そして首を傾げた。
如何様にして、二人の同じ存在を存在させ得るのかと。
此処に縛ればそれは可能だろう。しかし、それではいけないのだ。
けれど、城主が叶えようと思ったということは、それは成さねばならないことだ。
その時カサリと机の中から紙が擦れる音が聞こえ、城主は机の中を覗いた。
宛名のない手紙を見つけ、躊躇なく開く。
その紙の透かしが書いた主を特定していたからだ。この錬金術師の親友だと。
そして今こそ、城主の手で読まれるべきだと、手紙自身が主張したのだ。躊躇う必要はなかった。
その手紙には綿密に記された、世界の矛盾を正当化し得る方法が記されていた。
その手紙通りにすれば、確かに、世界を騙せるかもしれなかった。

「何か我儘はないか。餞別代わりに。」
城主は静かに問うた。
「では、弟に会いたい。すぐ下の弟に。」
彼は苦笑混じりに言った。
「その願いを叶えよう。実験も兼ねて。…君の親友は君をも手放す気はないらしい。」
城主はそう言って手紙を差し出した。

そうして行われた実験は成功した。
後は願いを叶えるだけだった。
多くの条件を必要としながらも、彼は、生き続けるのだ。これからも。
彼自身と彼の妹弟らと同じくして。
共に在らずとも、確かに。

「礼を言わねばならん。」
稀代の錬金術師は呟いた。
「私ではなく、君の親友に。」
城主は微笑んで言った。
奇跡の在り方を体現する己の模造品に敬意を表さずには居られなかった。

また、神話は新しい展開を見せるのだ。
幸せに向かって、加速するように。