覇王の血族




「まるで籠の鳥だな。」
冷ややかに言う小柄な人物の眼差しはひとつ部屋に向けられている。
覇王の称号を欲する一族の長たる男は、その言葉に顔を歪めた。
「いずれにしても喰らわれるならば、愛してはどうかね?」
一族の力の継承に繰り返してきた行為は、彼らの遺伝子レベルにまで組み込まれて、その日が来れば躊躇われることもなく喰らう。
己が父を。
そうすることで彼らは血を、力を守ってきた。
全ては、世界を覇する者となる為に。
籠の鳥、とは何に向けられた言葉なのか。
この父なる者への言葉なのか、あの部屋に幽閉された娘への言葉なのか、その遺伝子への言葉なのか。
しかしその全てを形容する言葉としては、余りにもぴったりとしすぎていた。
「君の父上は、君を愛していたろうに。その日が来ても。」
冷ややかな声は、この父なる者の父の生きた道を迷いなく指す。
その事がまた父なる者を苛む。
分かっている、自分にも流れている血を。
しかし、それでも。
死が近付いていくことを微笑む程に強くないのだ。
うなだれた様子をじっと眺めながら、物音一つしない部屋の気配を探る。
あそこにいる娘は、真に覇するに相応しい器を持つ。
刻という曖昧な境目に城を構えるこの小柄な人物はそれを見届けるのが、この一族との契約だった。
「娘に哀れまれる長となるか。」
それは侮蔑という毒をたっぷりと染み込ませてあった。

その日は、やはり訪れて、その日も城主は其処にいた。
娘は笑った。
「最期の時まで、笑ってもらわれへんかったわ。」
その言葉とは裏腹に柔らかく笑むのは、その血が温かかったからか。
浴びた、血が。
城主には量りかねる。
同属の血肉を喰らう事をさだめとする者だけが知っていればいいことだろうと。
「どうするかね、これから?」
「そうやね、この忌まわしい血から逃れる為に、世界を欲してみるわ。この血に従って。」
気楽に笑ったその娘が成熟する頃には、一族の悲願は叶えられることとなる。
そして、その忌まわしい慣わしは薄まり、一時人間を脅かす存在となったが、それもやがて人の血に溶け消えていった。
そうして忌まわしい血だけが、全ての生きとし生ける者の血脈に流れ、残った事を彼らがどう思うか、城主は知らない。
ただ、その事実が何処か、哀しかった。