下賜




「この儂が下賜を許すと思うてか。」
威厳が空気を打った。
「それも、妙なる力を持つ龍種の末裔を。儂は赦さぬ。」
轟きを閉じこめたような声が響く。
「…対価に見合う願いを叶えただけのこと。貴殿の許しなど要らぬ。」
冷ややかな声が轟きをも凍らせるように響き返す。
「ならぬ、ならぬ。されば、お主は儂に対価を払え。太古よりの理に従え。」
有無を言わさぬ掟の番人たる声でそれは響いた。
「貴殿がそれに値する存在なれば。…別に一尾や二尾居らずとも貴殿は困らぬのだろうに。」
冷ややかに嘲るその声には風が応えた。
その無礼な一言を赦すほど、轟きは軽んじられる存在ではなく、寛大でもなかった。
巨大な鉤爪に驚いたか、声の主は動かなかった。
ギィン、
金属音がして、爪は冷徹の声を裂く前に止められた。
黒に愛された男が銜え煙草で爪を食い止めていた。
「…おのれ。我が曾孫を愚弄する言、最早灰塵に帰さしめねば許せぬ。」
地を這うような呪いの言葉が響いた。
「…古の神、掟を守りし者よ。私は今から汝が呼び声に応じよう。御曾孫の願いを私は叶えた。それは違えるわけにはなるまい。その対価として、私は古の掟に従おう。」
冷徹は轟きに応えた。
轟きは静寂を纏う。
「曾孫を頼む、覇者よ。」
声は泣いているように弱々しく聞こえた。
「私は契約を違えない。」
確固たる意志を込められた声は優しかった。
古の理の守人は、ただの曾祖父ではいられないのだ。
そして契約の守人もまた。

「ちったぁ避けろ。間に合わなかったらどうすんだ。」
地面に刺した大剣を引き抜き、男は呆れたように言った。
「この身が千切れても確かめねばならんことがあっただけだ。」
事も無げに覇者と呼ばれたその人は応えた。
欲しいものを得るためには、対価を惜しまない。
それを体現するは彼方、いずこかにあるという刻の城の主だった。

かくして、紅き龍はうたかたの刻に生きる。