花想々




「ボクを、笑う?」
最後の花は聞いた。
僕は読んでいた本から目を上げ、声の方に視線を移す。
蜂蜜色の薄い眸がそこにはある。
僕は首を横に振った。
それを恋と呼ぶには、とても幼かった。
想いも、花も。
けれど確かに想いは存在した。
ただ、想いだけを選ばなかっただけのこと。
それを誰が責められるんだろう。
僕は無言のまま花の髪をすく。

それを恋愛という関係にするには、花は強くはなかった。
想った相手も、世界の在り方を容認は出来なかった。
所詮は相容れぬ二人に交差した想いが在ったというだけの事で、誰も悪くない。
僕も似たようなものだから、花の気持は分からないでもない。
いずれ来る別れがあるとしても恋をするし、一時、同じ時間を持つ事を望んでしまう。
それを愚かと言われたら、否定は出来ないけれど。
髪を撫で続けると花は少し落ち着いたようで、穏やかな表情をしている。

「…想いだけを選べるなら、きっとこんな気持ちにはならなかったのに。」
そう呟いてもきっと花は同じように自分を大切にしてくれるものを取るし、僕も戦場という日常に帰る。
仕方ないと思えるようになったのはいつだろうと思い返してみたけれど、それは成功しなかった。
思い出せないほど遠い過去なのだとは分かったけど。
正解はひとつではないし、花は花の大切なものが想いより強かっただけで、それはそれで大切なことだと思う。
気苦労の多い城主は僕達に可能な限りの選択肢を与えて、其処から何を選んでも見守るだけ。
ただ、その選択をさせる自分だけを苦しむ。
その選択をさせることだけが自由なら自由を与えないことが優しさかも知れない、と。
そんな城主に正解を尋ねても、きっと何も答えてはくれずに不機嫌な顔をするのだろうと思うと、少し笑えた。
でも僕はその選択肢を選べる事を感謝してるし、多分皆そうなのだ。

傷付かないだけの優しさは、内側から何かを腐らせるような、そんな優しさで。
だから今は苦しんでいるけれど、自分の選んだことに対する解答を持つ日がいつか来るのだと思う。
最終的に選ぶのは、いつだって変えられない存在だから。

コンコンと控えめなノックが聞こえて、花を寵愛する天使が顔を覗かせる。
僕は本を閉じる。
天使を見て花が笑うから、僕はもう一度髪を撫でて、部屋を後にした。