存在




私は声を出して謳うことはしない。
しかし、私の分身である、ソレは、気侭に謳う。
もっとも、私は声を出すのも煩わしがる傾向にあるのだが。

…ふいに音が止まる。
大気に含まれるモノに、私は体を起こす。
塔の最上階が彼女の気に入りの場所だ。
面倒臭くとも自力で上るしかない階段を、上り、小さなその部屋に辿り着く。
声をかける前に振り向いたソレに、ある種の戦慄を覚える、同時に確信する。
ソレは私であり、私ではない。
私がソレを切り放した時から。

言葉を交わしたりはしない。
ただ、そこで同じ刻を過ごす。
空気に、泪を含ませることがないように。
ソレは泣いたりはしない。
静かに、泪を殺して、空気に、分散させる。

その行為を極自然にこなすから、誰も、気付かない。
ソレが守るモノ。
私にはない熱さ…私が、切り放したモノで。
守り続けている。
私とソレは互いが疎ましく、又、愛しい。
己であり、他であるモノ。
私はソレを理解する事はなく、又、誰より理解する。
ソレも又。
ソレの存在は、他であるがゆえに私を安堵させ、ゆったりと愛させる。
しかし、ソレは又己であるから、この、罪深きを誰よりも形とさせる。

それでも、私は思うのだ。
己を愛せぬ者は、存在出来ぬし、他者を愛することは出来ぬ、と。
私は私自身を愛すことは出来ねど、私を愛すことができる。
私と私は奇妙なバランスで、存在を支え合っているのだ。

夕暮れ。
ソレは又、気紛れに謳い出す。
穏やかな唄に、鬱りはなく、私は外を眺める。
…薄い月が、出ている。