紫姫 - 城主と共にある刀の話




「…汝は選ばれた。その願い、叶えるだけの対価と引き替えに叶えよう。」

確かそれは、ある世界の何処かの国が滅亡する日だった。
刻が決めたそれは、神の悪戯より残酷に歴史を刻む。

「妾…妾の命と引き替えに、この戦に終わりを…。」
成熟した、美しい女だった。
この命を引き替えに戦は終わりを迎え、新しい時代が始まるというのか。
神にこの魂を、渡す理不尽を思いながら、私は女を見た。
「新しい時代には、妾の子らが生きていきましょう。妾は此処で、これ以上の血が流れることを望みませぬ。」
女は、一刻も早い戦の終わりを望んだ。
私は、契約をする為に口を開いた。
「汝が願い、確かに叶えよう。そして汝が命の行く末、汝が選ぶが良い。私と共に刻を渡る事と、神の御元へ行く事。それを選ぶ権利が汝にはある。私と共に来るなれば、その魂を輪廻から断ち切らねばならぬ。もう二度と肉体を持てずとも永遠の意思を望むなら、共に来るが良い。」
神の御使いより早く私が此処に呼ばれたのは、それを選ぶ権利があるからだろう。
女は幾拍かの後、共に、と言った。
「何か、思い入れのあるものがあるならば、それを憑代に。」
そう言うと女は一振りの刀を神棚から持ち出した。
「この刀は御神刀としてこの城を守って参りましたが、もう必要ないと打ち捨てられる定めなれば、妾と逝く事も許されましょう?」
そう言って、鞘を撫でる女は、時代と共に生きるにふさわしく凛として、私は目を細めた。
「最後に一つ…この世に生を受けた事、後悔するか?」
手前の剣を抜き、問うと女はたおやかに笑んだ。
「妾はこの城の姫として死ねる。惨めに地に這う事もなく。それ以上の至福はありますまい?」
その答えに満足し、私は手にした剣を女の胸に突き刺した。
事切れる刹那、女はもう一度笑った。
「有り難う。そしてこれからは貴方と共に…」
そう遺して女は息絶えた。
私はその城に火を放ち、その世界を後にした。
時代の終末、誰も知らない真実と共に。