王の指輪




王冠を模した指輪。
繊細な鎖に通され、白い胸元で揺れる。
けれどソレは持ち主の指を飾る事はない。
そっと愛しげに撫でられるのに、けして指には通されないのだ。

指の先で弄ばれる指輪に、
「誰から貰ったの?」
天使が尋ねる。
「…忘れたわ。」
彼女は淋しそうに、見えすいた嘘を吐く。
どこか、上の空で。

唯一つ、”あのヒト”から貰ったモノ。

現実さえ夢に在ると彼女は、笑う。

だから、指にはめてしまえば、消えてしまうと思っているのかも知れない。
或いは、はめられる為の指輪をはめない事で、彼女は何かを守るのかもしれない。

もっとも、考えた所で真実は彼女にしか分からないのだが、もしかしたら、彼女自身、分かっていないのかもしれないとも思う。

だとすれば、それは限り無く彼女らしい。


『真実は全て夢の中』


全てはその言葉の示す通り…王冠は今日も鎖に戯れ、彼女の胸から離れる事はない。