くちづけ




その二人は、とてもとても自然にキスを交わす。
求めるようなキスでも、愛しさから来るキスでもなく。
呼吸のように。
何だか、唇を当てているだけで、キスと呼ばないんじゃないかと思ってしまうような。
そんなキスを。

窓際で薄く昇った月を見上げていた天使は、視線を室内に戻した。
滅多に訪れない、華奢な体つきの青年を見た。
青年がいるのを全く意に介していないように読書に耽る、この城の主の髪を指に絡ませて遊んでいる。
ふと、青年が視線を上げる。薄い栗色の眸が、自分に向くのを感じて、天使は少し緊張した。
色素が薄いわけではないのに、眸だけ淡いのが何だか不思議だ。

それは、この城の主にも言えることなのだが。(もっとも、この城の主は銀色だから、普通に有り得ない色だと天使は思っている。)
ちょっとだけ細められて微笑まれると、何だか居心地が悪い。
訳もなくドキドキする。
クス、と声も立てずに笑って、青年は手で遊んでいた髪に口付けを落とした。
綺麗だな、と思う。
自分が見ている光景は、まるで小説か何かから抜け出してきたもののように、完成された自然さを持っている。
現在進行形であるにも関わらず、何故か完結した物語を思わせるのだ。
そこまで考えて、天使は漸く視線を逸らす事を思いついた。


ふと、視線を上げる。
その額に口付けが落ちる。
決められているわけでもないのに、それが決められたことのように。
この二人は、ひどく孤独だと思う。
本人達に言えば、笑われるかもしれないけれど。
どこか、孤独だと思う。
それ以上にしっくりと来る言葉を、天使はしらなかった。
そして、だからずっと一緒にいられるんだろうと思う。
恋には別れが来ると、痛いほど知っているから。


「何を物欲しそうに見ているんだ?」
漸く読み終えたのか、綺麗なアルトの声が響く。
「え?!も、物欲しそうになんて見てない…」
あからさまに動揺して天使は応えた。
「今日は、いると思うよ。」

青年の声に、ちょっと微笑む。
青年は自分の大事な人が帰っていると教えてくれたのだ。
「ん、じゃぁ、行ってくる・・・」
ぱたぱたと出て行くのを意地悪く笑いながら見送る、その体を青年はふわりと抱きしめた。
そして、また口付けを交わす。
熱を孕まないような静かな口付けだった。

「ね、キスして?」
久々に会った男に抱き付いて、天使はねだる。
男は僅かにうろたえて、そして極上のキスを与えた。