陽の光を喰らい尽くした月を、天使はじっと見詰める。
堕天使も何の気なしに同じ様に見上げる。
「陽が恋しくて恋しくて、喰らい尽くしてしまうのでしょうか。抱きしめて、離さぬというように。」
切なげに天使はそう呟く。
堕天使は天使に視線を移した。
「私は、貴方を知っています。」
唐突に天使が言った。
堕天使が黙っていると、聞いている事を想定しているのかしていないのか、そのまま言葉を続ける。
「貴方はいつも此処で暁を見ている。闇を好む貴方が闇が去るのを見届けるのが印象的で。だから私は貴方を知っていました。」
天使が視線を上げて、目が合う。
逸らす事もなく天使は堕天使を見詰める。
「…人間は、滅ぶべきだと思いますか?」
漸く視線を外して、天使は聞いた。
堕天使は何も言わない。
天使も口を噤み、その場は静寂に包まれる。
数分後、永遠かと思われた静寂は堕天使の声によって破られた。
「―俺は、神の正義よりも守りたいものが、ある。」
的の外れたその発言に気を悪くした様子もなく天使は首を傾げた。
堕天使は何を守りたいというのか、天使には分からない。
天使という存在(モノ)は神の正義を守るその為に存在する。
それゆえに答えなど理解し得ないのかもしれなかった。
「だから、俺は天を降りた。」
その強い眸に宿るのは、神に与えられた定めではないものそのものなのか。
堕天使は羞じることなくそう告げる。
真に羞じるべきは、それを知らぬ者だと言うかのように。
天使は何も答えない。ただ、まぶしそうに見つめていた。
「…俺も、貴君を知っている。先の対戦で、貴君は神に近しい場所にいた。誰よりも強く、誰よりも美しかった。俺はそのとき、まだ、天使だった。」
天使が聞いているということは余り意識していないのか、堕天使の声は低く、聞き取りづらい。
それでも天使は聞いていた。
再びあわせた視線を今度は互いに外す事なく、見詰め合う。
次第に熱を帯びるそれは、二人だけを世界から隔離していく。
その内、涙でも零れないかと案ずるほどに言葉もなく、すべての想いを視線に乗せて
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